IaCツールはどれを選ぶ?AWS習熟度・職種・組織フェーズ別にCDKとTerraformを比較

この記事の目次
はじめに
これまでの記事では、CDKやTerraformなど、代表的なIaC(Infrastructure as Code)ツールの使い方を紹介してきました。
今回はそのまとめとして、「どのIaCツールを選べばよいのか?」に悩んでいる方に向けて、AWSの利用レベルやエンジニアの職種に応じたツールの選び方を整理してお伝えします。
あくまで筆者の経験をもとにした内容ではありますが、ツール選定に迷ったときのヒントとして、気軽に参考にしていただければと思います。
AWSの習熟度に応じたIaCツールの選び方
初級者向け:CDKがおすすめ
AWSを使い始めたばかりの方や、まだマネジメントコンソール中心で操作している方には、まずはCDKの利用をおすすめします。CDKはTypeScriptやJavaScriptといったなじみのある言語でインフラを定義でき、開発者にとって学びやすいのが特徴です。また、構文エラーや設定ミスなどをコードレベルでチェックできるため、トライ&エラーの中でも安心して学習を進めることができます。
中級者向け:CDKとTerraformの使い分け
AWSの複数サービスを連携させて利用したり、IAMやセキュリティ設定にもある程度慣れてきた方は、CDKとTerraformを併用するフェーズに入っているかもしれません。プロジェクトによっては、アプリケーションと親和性の高いCDKが適しているケースもあれば、Terraformのようにコードの再利用性やマルチクラウド対応を意識する場面も出てきます。それぞれのツールの強みを理解したうえで、使い分けていけると運用の幅が一気に広がります。
上級者向け:Terraformによるマルチクラウド対応
AWSに限らず、GCPやAzureなど他クラウドも含めたインフラ構築を行うような上級者の方には、Terraformが非常に強力な選択肢になります。Terraformはマルチクラウドに対応しており、細かなリソース定義や一貫した構成管理をコードで実現できます。セキュリティや運用ルールが厳格な大規模環境でも柔軟に対応できるため、より戦略的なインフラ管理を目指す際に頼りになるツールです。
職種別に見るIaCツールの特徴と活用シーン
CDKの特徴と活用シーン(アプリケーションエンジニア向け)
CDKの基本的な特徴
CDK(Cloud Development Kit)は、TypeScriptやPythonなどの一般的なプログラミング言語を使ってAWSのインフラをコードで定義できるツールです。アプリケーション開発に慣れているエンジニアにとって、学習コストが低く始めやすいのが特徴です。
また、型チェックや構文チェックによって、デプロイ前に多くのエラーを検出できる点も安心材料の一つです。一方で、大規模な構成になるとデプロイに時間がかかる傾向があるため、その点だけは注意が必要です。
CDKがアプリケーションエンジニアに向いている理由
CDKは、普段アプリケーションを書くのと同じ言語でインフラを定義できるため、アプリケーションエンジニアにとって非常に親しみやすいツールです。型システムによって安全にコードを記述でき、エディタやIDEの補完機能も効くため、デバッグやトライアルも直感的に進めやすいのが魅力です。
さらに、AWS公式のツールとしてメンテナンスされているため、ドキュメントやサンプルコードも豊富で、AWSとの相性も抜群です。日々の開発サイクルの中で「インフラもコードで一貫して管理したい」というニーズにマッチする選択肢といえるでしょう。
Terraformの特徴と活用シーン(インフラエンジニア向け)
Terraformの基本的な特徴
Terraformは、インフラ構成の定義に特化したHCL(HashiCorp Configuration Language)という宣言型の専用言語を使ってリソースを管理するIaCツールです。
記述内容がシンプルで読みやすく、インフラ全体の状態を明確に可視化できるのが大きな特徴です。設定ファイルをもとに差分だけを適用する仕組みになっているため、意図しない変更を防ぎやすく、安全な運用につながります。実行時にリソースのプラン確認(plan)を通じて変更内容をシミュレーションできる点も、実際の現場での安心感につながるポイントです。
Terraformがインフラエンジニアに向いている理由
Terraformは、コード上に「どういう状態にしたいか」を記述する宣言的な構成がベースとなっており、インフラの理想的な状態を明確に定義できます。
どのリソースがどのように変化するかを事前に把握しやすく、リスクを抑えた変更管理が可能です。さらに、AWSはもちろん、GCPやAzureといった他クラウドにも対応しており、マルチクラウド環境でも同じ運用思想でインフラを構築できます。
また、公式やコミュニティによって提供される豊富なモジュールや拡張機能があり、ある程度の規模以上のプロジェクトでは構成管理の標準ツールとして扱われるケースも多くなっています。
組織のフェーズに応じたIaCツール戦略
スタートアップ期:CDK中心
スタートアップや立ち上げフェーズのチームでは、スピード感のある開発が求められます。まだインフラ専任者がいない場合も多く、開発者自身がインフラを構築・管理するケースが一般的です。
このような状況では、アプリケーション開発と同じ言語で記述できるCDKが非常に相性が良く、学習コストも低いため導入しやすい選択肢です。
少人数でも手戻りなく構築・変更できるCDKは、「まず動く環境をすばやくつくる」ことが重要なフェーズにぴったりのツールといえます。
成長期:CDKとTerraformの併用
チームやサービスの成長に伴い、インフラの規模や複雑さが増してくる成長フェーズでは、役割分担を意識したツールの使い分けが重要になります。
アプリケーションに密接に関わる構成は引き続きCDKで管理しつつ、チーム横断的に利用される認証や監視などの共通基盤についてはTerraformで一元管理することで、環境の一貫性や再現性を高めやすくなります。
このような併用スタイルは、構成の再利用性を高めながら、チーム間の責務を明確に分離できる点でも、成長中の組織にとって現実的かつ効果的な選択肢といえます。
成熟期:Terraform中心
組織が大規模化し、インフラ管理の役割が明確に分担されるようになると、可搬性・再現性・保守性を重視したTerraformによる構成管理が適しています。
専任のインフラチームが設けられ、マルチクラウドやネットワーク設計などにも対応する必要が出てくる中で、Terraformは豊富なモジュールとツール群によって一貫性のある構成とスケーラブルな運用を実現できます。
成熟した開発組織では、Terraformをベースに社内標準のIaC運用ルールを設けることで、チーム間の足並みを揃えた安定した開発体制を築くことができます。
CDKとTerraformのハイブリッド活用シナリオ
サービスごとの使い分け例
実際のプロジェクトでは、サービスの種類や運用体制によって、CDKとTerraformを使い分けるケースが増えています。例えば、WebアプリケーションやAPI基盤などアプリケーション側のリソースは、開発者と連携しやすいCDKを使うことで、開発者の使用言語やスタイルに合わせたインフラ管理がしやすくなり、運用体制の構築が効率化されます。
一方で、認証や監視といった全社共通のインフラ基盤はTerraformで統一的に管理することで、構成の一貫性や再現性を保ちやすくなります。特に複数のチームが関与する環境では、ツールの役割を明確に分けて運用することが効果的です。ツールをチームや責務ごとに分けることで、開発スピードと運用の安定性の両立が図れるのが、ハイブリッド運用の大きな利点です。
マルチクラウド環境での使い分け
近年、クラウドサービスの選択肢が多様化し、複数のクラウドを併用するマルチクラウド構成も一般的になっています。メインのインフラをAWS上で構築している場合は、AWSとの親和性が高いCDKを活用することで、効率よくアプリケーションやサービスをデプロイできます。
一方で、GCPやIDaaS(Identity as a Service)など、CDKが対応していないクラウドサービスや外部連携基盤については、Terraformで柔軟に対応するのが現実的です。
Terraformはプロバイダの種類が非常に豊富なため、マルチクラウド環境下でも統一された構成管理が可能です。異なるクラウド間の設計や構築を一つのツールで完結できるのは、インフラエンジニアにとって大きな強みとなります。
まとめ
IaCツールの選定に「正解」はありませんが、AWSの習熟度や組織のフェーズに合わせて柔軟に選ぶことが、インフラ運用をスムーズに進めるポイントです。
アプリケーション開発に近い領域ではCDK、より広範で複雑なインフラ管理にはTerraform、といったように、それぞれの強みを活かして使い分けることで、チーム全体の生産性と保守性を高められます。技術や体制の変化にあわせてIaCの運用方針もアップデートしていくことが、継続的なインフラ改善の第一歩です。この記事が、その判断の一助となれば幸いです。